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  • ★ エンデの遺言 根源からお金を問うこと(2008/10/22)

    エンデの遺言 根源からお金を問うこと

    河邑厚徳+グループ現代

    NHK出版/2000年

    山崎奈津子(2008/10/22 掲載)

    10歳になる頃には、原爆もアウシュビッツも南京大虐殺も大東亜共栄圏も習っていましたし、環境問題やエイズに関してもかなりの知識を叩きこまれていました。そういった知識から描かれる未来は、それはそれは薄暗いものです。子供が無邪気なものかどうかは知りませんが、無垢な心と柔軟な精神を持っていることは確かなわけで、彼らにとってマイナスばかりの情報がどれほど負担になるか知れません。神様ですらパンドラの壺に災厄と希望をセットで入れてくれたのですから、私たちも見習わなければならないでしょう。

    大学生にもなれば、悲観的な情報を一方的に与えられるのではなく、マイナーで興味深い試みについて色々知ることができます。『はてしない物語』や『モモ』を書いた児童向けのファンタジー作家として有名なミヒャエル・エンデに取材した『エンデの遺言 根源からお金を問うこと』は、文化人類学の講義で紹介された本です。ただその頃は、まだまだ私自身あほだったので、読んでもあまり理解できませんでしたが・・・

    この本は地域通貨の資料として扱われることが多いようですが、どちらかというと現在の金融システムに対する警鐘に重点を置いた本だと思います。マイナス利子を持つ貨幣を考案し、実際に運用して大きな成果を上げた思想家シルビオ・ゲゼルの「お金は老化しなければならない」というテーゼが軸になっています。劣化し価値が減少していく物質と、永遠に劣化しない、それどころか時間がたつに従って価値が増殖していく貨幣との差異にこそ、金融の問題の根幹があるという指摘は大変興味深いです。お金が現実の商取引や物と解離し、それ自体が商品となっている現在の金融システムとグローバリズムの組み合わせこそが諸悪の根源だということは、今この世界に生きていれば薄々感じざるを得ないでしょう。それに対して「ホリエモンのように、金融システムをうまく乗りこなして勝者になれ」と教えても意味はないと思います(これは年下の従弟がホリエモンブームの時に、実際に高校で言われていたことです)。マイナス利子制度の実現は不可能なように感じますが、多くの人が心に留めることで変化が起こるかもしれません。

    プロフィール

    山崎奈津子