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福祉NPOの社会学
安立清史
東京大学出版会
安立清史(2009/12/26 掲載)
時代や社会の大転換時期には、まず「社会の危機」が強く意識される。日本の場合、1990年代の「失われた十年」、とりわけ1995年の阪神淡路大震災とオウム事件などが、その象徴だった。当時、私はアメリカ・ロサンゼルスに暮らしていた。太平洋の向こう側から日本を眺めると、様々な問題や課題がくっきりと見えてきた。当時の日本は(そして今も)、しっかりとした制度と組織を作るのはうまいが、それは平時に機能するものであって、大震災などが起こると機能停止してしまう。そうした危機の時代にこそ、個々人の自発的なエネルギーが必要である。しかし日本の教育や組織文化は個人の自発的な力を抑制し、みんなが等しく同じように行動することを強いてきたのではないか。だから危機に弱いのではないか。対照的に、アメリカのボランティアやNPOは、組織に頼れない危機や大変動の時代にその神髄が現れるものではないか。アメリカ社会に暮らして、そう思った。
ボランティアやNPOは、日本社会のこれまでのあり方と異質なものである。それは多様な人びとの新たな結集のための媒体であり、結果的に社会に多様性と不思議なエネルギーをもたらす。そして日本社会のこれまでのあり方には苦い反省を求めずにはいないだろう。はたして日本にもNPO法が制定され十年を経た。ブーム的にNPO数だけは増えたが、日本社会の根本を変えるようなNPOは生まれただろうか。むしろこれまでの日本的なボランティア団体と変わるところのないものに変質してきてはいないか。百年に一度といわれるような経済危機の現在こそ、もういちどボランティアやNPOの原点に立ち返った人も活動が生まれてくる時ではないか。
本書は、以来、多くのボランティア団体やNPOを訪問し、なかでもアメリカ最大のNPOであるAARPを調査してきたことを軸とした研究成果である。現在のような経済危機の時代、政治や体制の転換期にこそ、もういちど、あらためて、ボランティアやNPOの役割を考えてみたい。そう念じて、自著ではあるが、あえてご紹介する次第です。
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プロフィール
安立清史
九州大学大学院 人間環境学研究院准教授