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    二宮金次郎はなぜ薪を背負っているのか?

    猪瀬 直樹

    文春文庫

    友景肇(2011/08/22 掲載)

    いつの世も、景気が良くない、という。いつに比べてのことか。それは、1980年代のバブル時に比べてのことか。いつの世も、その時代を生きている人にとっては、大変な時代なのである。

    経済が国内に限られ、規模が小さかった江戸時代、小田原の近くの村に二宮金次郎は生まれた。今から50年前には、どこかの小学校には、小さな銅像が立っていた。薪を背負い、本を読む姿である。親の仕事を手伝いながらも寸暇を惜しんで勉学に励む姿と教えられたような気がする。しかし、彼がどのような人物で、どうして小学校にあったかは知らなかった。この本を読むと、その訳が分かるだけでなく、実務家としての二宮金次郎といつの世も景気が良くない中、自ら行動を起こす偉い人はいたのだと分かる。

    1789年に農家の二男として生まれたが、子供のころ両親を亡くし、長男も若くして逝き、自らが家を支える立場となる。当時、光熱費の家計に占める割合は、今以上に高かったという。飯炊きの燃料である薪の価値が高いことから、村で保有する入会地に子供だということで入れてもらい、薪を集めて町に出て売ったという。また、家の近くの河川敷で菜種を仕入れて、菜種を栽培し、それを売って油と交換したという。商品価値の高いものを売る合理的な姿である。

    18歳で農村の名家に奉公に入り、貯めた金で山を買う。目的は、薪である。次に、武家屋敷に入る。奉公人の中で金策に困っている人たちを見て、皆で金を出し合ってファンドを作り、貸し与える。低利で融資し、ファンドを奉公人皆で大きくする仕組みを作っていく。武家の財政改革にも手腕を発揮し、小田原藩の知るところとなる。34歳のとき藩の命を受けて、栃木県にある領地に赴く。飢饉もあり、元禄期には1900人余りいた農民は730人しか住んでなく、灌漑は壊れ、田畑は荒れ果て、人心も荒れていた。この村で金次郎は、これまで実践してきた合理的でしかも互助精神の制度を導入して、15年間かけて領地の経済を立て直す。最終的には、ファンドは1万両まで大きくなったという。ついには、幕府からも声がかかり、国の経済立て直しに邁進していくのである。

    やるべき職務を15年かけてやり抜く。途中は、大変なことばかりであった。3年で部署が変わる、今の役人とは違う。経済の立て直しには抜本的な制度改革が必要、とテレビで論評するコメンテータとも違う。

    二宮金次郎とは誰だったのか。彼は、経営者ではない。合理的で、しかも自ら現場に入って行動した、今でいう公務員だったのである。

    プロフィール

    友景肇

    福岡大学工学部 電子情報工学科 教授