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  • ★ ルワンダ中央銀行総裁日記(増補版)(2010/10/21)

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    ルワンダ中央銀行総裁日記(増補版)

    服部正也

    中公新書

    松嶋慶祐(2010/10/21 掲載)

    この本は、国際開発援助に携わる人だけでなく、身近な地域づくりに関わるすべての人にとって、バイブルとなるものだと思います。
    ルワンダという国に詳しい人は、そう多くないと思います。国際情勢に詳しい人なら、1990年代半ばの民族対立でおぞましい虐殺が行われた、そんな記憶があるかもしれません。
    実は1960年代、アフリカの最貧国だったルワンダの中央銀行に、総裁として派遣された日本人がいたのです。その人の名は服部正也。この本は、日本銀行の銀行員だった彼が、IMFの要請で6年間ルワンダに駐在し、そこで中央銀行総裁として勤務した記録です。
    当時のルワンダはサブサハラ・アフリカ(サハラ砂漠より南のアフリカ諸国)の中でも特に開発が遅れたている国でした。ベルギーから独立したあとも、主要な産業は生産性の低いコーヒーと錫鉱石のみで、財政は大赤字。大学教育を受けた者は国内に数人のみで、援助スタッフとして派遣されているベルギー人はお世辞にも優秀とは言えない人ばかり。しかも中央銀行なのに金庫のなかの銀行券のストックも足りず、数カ月後に迫るコーヒーの収穫時期が来て取引が始まれば、銀行券が底をついてしまう!
    そんな過酷な状況のなかで服部は、経済再建計画をつくり、実行に移します。農業も商業も未熟なルワンダ人が外資系企業に搾取されず自律するには、どういう仕組みを作り、何を改善すれば良いか、彼は考えます。ろくに整理されていない中央銀行の帳簿をチェックし、実際にルワンダ人商人や農民に話を聞いて回り、改善点を見つけて制度を作り直します。
    その結果、5年間で物価の安定と国際収支の改善、国内産業の生産性向上を実現し、年率6%の経済成長を達成してしまうのです。
    彼は「ルワンダ人の手による自律的な経済成長」という目標を常に忘れず、ルワンダ人商人や農民の生活をつぶさに見て歩き、国の経済発展にとって解決すべき課題を見つけ出し、それを解決する制度を作り出すという、地道な仕事を大切にしました。現在の日本の中央銀行の仕事とは少し違うかもしれませんが、こうした地道な経済政策の大切さを改めて認識することができます。
    また、この姿勢は、地域づくりや都市計画など、地域の問題解決を仕事とする人たちにとっても、自分の仕事の「基本」を見つめ直すものとなるように思います。私自身も、そういった仕事をする者のはしくれとして、手元に持っておきたい大切な本のひとつです。

    プロフィール

    松嶋慶祐

    九州経済調査協会 情報研究部 研究員