-
ヒトデはクモよりなぜ強い
オリ・ブラフマン/ ロッド・A.ベックストローム 著 糸井恵 訳
日経BP社
本橋一夫(2011/02/02 掲載)
「分権」「分散」「フラット」など、オープンなシステムを概念として分析、研究した本の出版が相次いでいる。それぞれ説得力にとんだ内容のものが多いが、本書は、抽象的な議論ではなく組織論の枠の中で実際に世の中で起っていることを分析している点が新しく、且つ現実の世界での行動指針を示せている点で、実務書としての価値をも獲得している。
クモ型=頭を切り落せば死んでしまう=従来の集権型。ヒトデ型=切り刻んでも死なない、切り離した各部分が新しいヒトデとして生まれ変わる=分権型、として組織形態を対比させ、レコード業界と音楽ファイルの交換をするネットワークの戦いを例に、クモ型がヒトデ型に敵わない理由を詳解するところから本書は始まる。
後半、分権型組織の強さの本質にふれ、人がたとえ無償でもネットワークに貢献するのは「人間は他人と情報をシェアしあうのが好き」であり、「機密を維持するのが難しいのは」「人はおしゃべり好き」だからなどは人間の本質に係わる議論だし、トヨタの組み立てラインを例に現場への権限委譲の有効性を「組み立てラインがどうなっているか、誰よりもよく知っているのは作業員」だからとするなど、応用可能な概念に溢れている。
企業であれ民間のコミュニティーであれ組織構築,運営にたずさわっている方、ぜひご一読を。
-
プロフィール
本橋一夫
丸善 丸の内本店 ビジネス・経済書担当 ・ブックアドバイザー