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    ★ 『500人の町で生まれた世界企業ー義肢装具メーカー「中村ブレイス」の仕事ー(2009/12/25)

    『500人の町で生まれた世界企業ー義肢装具メーカー「中村ブレイス」の仕事ー

    千葉望

    (株)ランダムハウス講談社

    藤井学(2009/12/25 掲載)

    本書は、島根県の義肢装具メーカー「中村ブレイス株式会社」の中村俊郎社長の生い立ちと事業への取り組み、石見銀山の世界遺産登録に対する活動についてとりまとめたノンフィクションである。

    中村ブレイスの製品には、人口乳房「ビビファイ」、汎用品であるベルトやインソール(足底板)などがあるが、これらは国内外の医療機関や患者から高い評価を得ている。同社は、島根県大田市大森という人口430人程度の過疎地域で誕生した企業であるが、世界を相手に事業を展開することに成功している。また、石見銀山の世界遺産登録に対しては、町並み再生や資料館の整備等を通して積極的な支援を実施した。これらの取り組みが評価され、中村社長は、「第4回日本ニュービジネス大賞優秀賞」や「地域活性化貢献企業特別賞」、「第3回渋沢栄一賞」など、数々の賞を受賞している。

    本書は、徹底的な現地の関係者に対する取材や文献調査に基づいて執筆されている。そのため、会社の取り組み、製品詳細が理解しやすく、同時に中村ブレイスの成功要因を示唆することにも成功している。その成功要因とは、「質の高い独自製品を支える技術力と将来を見据えた開発」、「国内にこだわらない市場開拓」、「専門誌への広告や海外見本市・展示会参加を通した効果的な広告戦略」、「雇用や世界遺産登録を通した地域への貢献」である。また、評者が中村ブレイスを訪問した時に、中村社長からは「インソールの開発に当たっては、材料のシリコーンゴムの素材メーカーから様々な技術的な協力を得た」というコメントがあったため、「社外の知・技術の有効活用」も成功要因として挙げられるだろう。

    これらの成功要因は、中村社長および中村ブレイスの様々な努力によってもたらされたが、他の地域の企業も、同様の成功要因をつくりだすことは可能ではないだろうか。山陰の過疎地で成功した企業と経営者を紹介する本書は、九州を含めた少子高齢化に悩む地域の活性化に対して、数多くのアイデアを提示している。

    石見銀山の本格的な開発は、16世紀に博多商人の神谷寿亭が銀鉱石を博多に持ち帰ったことにより始まったとされており、島根県大田市は、九州との縁がある地域である。400年前に島根から九州に持ち込まれたものは銀であったが、現在は中村ブレイスのノウハウやアイデアを持ち込むことが出来るのではないか、と考えさせられる。

    プロフィール

    藤井学

    調査研究部研究主査