現代の金融政策 理論と実際

白川方明

日本経済新聞出版社

片山礼二郎(2009/12/25 掲載)

今、話題の書である。
本書が発行されたのは2008年1月。その後、著者・白川氏は日銀総裁に就任し、本書はその「所信表明」とも評されている。現日銀総裁が、一学者として著した金融政策についての本という点だけで、読む価値はあるだろう。

著者が序章の中で「第?部までは教科書としての性格を考慮し」と記しているとおり、本書を金融政策の教科書として読むことも可能だが、「この時代に現実に経験し感じたことを何らかのかたちで書き残しておきたい」内容は、「著者自身の考えを説明することに重点を置いている」第?部に集約されている。その第?部は、最初に2001年3月から06年3月まで採用された量的金融緩和政策について書かれている。私はこの部分を最も読みたかった。そして、この“異例な政策“の具体的内容と採用するに至った背景を知りたかった。その目的は極めて明快な言葉と論理で達成することができたと思う。

いわゆる“勉強になった”という感想に終始するのだが、この量的金融緩和政策を実践するために、日銀がどのようなことを行ってきたかという点は、想像力をたくましくすればドラマチックですらある。不勉強な私は、『日銀は紙幣を発行できる権限があるのだから、資金供給を増やすのはそう難しいことではないのでは』と考えていた(そう考えている人も多いように思うが)が、「量的金融緩和政策」のもとで目標とされた日銀当座預金残高を引き上げることは、金融機関が当座預金残高を増やそうという経済的インセンティブが働かない限り、その達成は困難になる。このインセンティブを働かせるために、日銀は様々な工夫をし、各種の制度を駆使しながら、その効果を発揮させている面を知りえることもできる。このように、タイトルの通り金融政策の”実際“についても詳しく書かれている点から、理論に終始する教科書とは異なるフレーバーを漂わせている。

 “戦後最長”の景気回復期を終え、原油価格の高騰に伴うスタグフレーションへの懸念も囁かれている今、金融政策当局にとって最も政策運営が難しい局面を迎えようとしている。 本書では“標準的な議論”として、このような局面における金融政策のスタンスが紹介されている。

“標準的な議論の紹介”であっても、総裁が“標準的”と表現した内容は、それだけで意味がある。

プロフィール

片山礼二郎

九州経済調査協会 情報研究部次長