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  • ★ シリコンアイランド九州の革新者たち(2009/12/25)

    シリコンアイランド九州の革新者たち

    友景肇監修、株式会社ふくおかフィナンシャルグループ・財団法人九州経済調査協会編

    西日本新聞社

    岡野秀之(2009/12/25 掲載)

    本書は、数年来、地域産業政策の柱として重視されている「産業クラスター」の実態を、その当事者である「人」の視点から描いたものである。産業クラスター政策は、地域の中核企業や主要大学に注目して進められるが、実際にはそこで様々な取り組みを企画し、実践していく原動力は、「人」である。

    九州の半導体産業クラスターを対象に、ここで活躍する36人のキーマンが取りあげられている。経営者、マネージャー、エンジニアなど多彩な顔ぶれである。彼らの事業は、多種多様であるが、それが有機的に結合しつつ、新しい活動や事業が展開されていることがわかる。構成も、前の登場人物が次の登場人物を紹介するという「友達の輪」方式・リレー方式となっており、その繋がりの一端を垣間見ることができる。彼らの生い立ちから、生き様、発想の根幹に迫り、なぜもかくに新しく困難な仕事に取り組んでいくのかという彼らの想いが生々しく記述されている。若くして両親を亡くして苦労を重ねた人、大病を患い生死をさまよった人、なんども転職を重ねるなかで進むべき道を見いだした人、若い頃やんちゃを重ねて更生した人。彼らの経験の数々が、今の彼らを支えている。前向きに楽しく一度きりの人生を生き抜きたいという気持ちを皆が共通して持っていることがありありと伝わってくる。

    キース・ソーヤの名著『凡才の集団は孤高の天才に勝る〜グループジーニアスが生み出すものすごいアイディア(ダイヤモンド社、2009年)』では、新しいアイディアや歴史的な発見は、一人の天才の手によるものではなく、実は人々の相互作用・コラボレーションによって出現しているということが、実証的に示されている。ダーウィンの進化論、ライト兄弟の飛行機しかりである。そして、そのイノベーションは、誰にでもできる可能性があるとの心強い結論がある。
    本書に登場する36人についても、特別な世界に身を置くようなスーパーマンでもヒーローでもない。しかし、彼らは、夢や想いや意志を持ち、自らのやりたいことに前向きに取り組むなかで、相互に信頼できる仲間と繋がりながら、新しい動きやうねりを創り出している。彼らの生き方こそがイノベーションの原動力ではないかと感じる。地域の産業を活性化させるのは、人の想いや夢であり、その信頼の絆であるということを改めて実感させられる。彼らの生き方を幸せだと思う。産業政策に携わる人だけでなく、これから社会に巣立つ若い人たちにはぜひ読んでもらいたい一冊である。

    プロフィール

    岡野秀之

    九州経済調査協会 総務部次長