コンテナ物語

マルク・レビンソン 訳:村井章子

日経BP社

加峯隆義(2009/12/25 掲載)

何の変哲もない‘スチール製の箱’は、20世紀最大の発明品の一つに数えられる。その所以は、効率的な輸送体制を構築し、輸送コストの大幅な低減を実現したことにあり、まさに物流革命を引き起こした。ベトナム戦争時、アメリカ軍の軍事物資の輸送手段としてコンテナが大活躍したことは意外と知られていない。

本著は、コンテナの誕生秘話を描いたノンフィクションである。トラックから「箱」だけ切り離して船に載せるアイデアを思いついたマルコム・マクリーンの英知、運用を阻む規制当局や、既得権益を守ろうとする港湾労働組合との戦い、コンテナ専用埠頭のインフラ整備など、コンテナ誕生に向けたさまざまな物語が凝縮している。見方を変えれば、ある規格品がグローバルスタンダードとなっていく過程と労苦を描いた著作としても読むことができる。

最終章では、コンテナの未来について興味深い内容が紹介されている。今や、大型化するコンテナ船を設計する造船技師の悩みは、岩礁や浅瀬が多く可航幅の狭いマラッカ海峡を、いかに安全に運航できるコンテナ船を設計するかだという。マラッカマックス(海峡を通過できる最大船型)のコンテナ船が誕生すると、喫水は20m、積載能力は18,000TEUに上り、港でコンテナの受取りを待つトラックを一列に並ばせたら100kmを超える。ちなみに現在は10,000TEU積載可能なメガコンテナ船が就航を始めようとしているが、今時点で寄港できる国内埠頭は数少ない。つまり日本へのトランクラインの寄港が難しくなってきていることを意味する。

著者であるマルク・レビンソンは、経済雑誌「The Economist」の金融・経済学担当のエディターや、「Newsweek」でライターを務めたニューヨーク在住のエコノミストである。資料制約がある中、文献調査、ヒアリング調査を総動員した力作である。ジャーナリスト出身であるだけに軽快なテンポでストーリーが描かれ、読み物としても面白い。

プロフィール

加峯隆義

九州経済調査協会 調査研究部次長