食卓の向こう側」シリーズ1ー6

西日本新聞社「食くらし取材」班

西日本新聞社出版部

小川全夫(2009/12/26 掲載)

2003年12月17日から、西日本新聞社が連載を始めた「食卓の向こう側」は、多くの読者に衝撃を与えた。その反響の大きさをバネにして、シリーズは続けられ、いよいよ家計の問題にまで踏み込む展開を示している。ある程度まとめられたところで、ブックレットとして市販されることで、新聞購読者以外も読むことができるようになっている。また、要点は「劇画」と装いを変えて出版されている。九州は日本の国土開発計画以来、食料供給基地として位置づけられ、農畜水産物を生産することで日本経済の重要な役割を担っている。しかし大量生産・大量輸送、大量消費の経済市場を前提にした生産主義的な産業戦略の下で、消費生活や人としての暮らしや生物としての命がどのようになったのか評価して見直す時期である。今や安い食料を確保するために輸入品に頼ることは経済的にも不可避とされる一方でBSE、鳥インフルエンザ、豚コレラ、口蹄疫などの危機をはらんでおり、産地偽装や毒物混入など、食に対する不安は高まっている。量的には恵まれた食料状態に置かれているといえる九州の住民であるが、日常の食は必ずしも安全・安心を享受できている状況ではない。このシリーズは、そうした九州の人々の暮らしを解きほぐして、食の安全安心をどのように構築し直すのかを問うている。生産者も消費者も全くコストをかけずに食の環境を変えるというのは至難の業である。しかし生産者と消費者が納得のいく交換を構築し直す可能性は残っている。農業者や漁業者は、これまで生産者としての役割を果たさない限りは経済界に位置づけられなかったために、いのちや暮らしを犠牲にする人生に追い込まれていたのかもしれない。消費者もまた金に依ってしかいのちと暮らしを守ることができない状態にあった。その事実に目覚めれば、生活主義的な産業戦略が勢いを増すだろう。このシリーズはそんな予感をさせてくれる刺激的なレポートである。

プロフィール

小川全夫

山口県立大学大学院教授