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  • ★ THE GIVING TREE(2009/12/25)

    THE GIVING TREE

    Silverstein

    HarperCollins Publishers

    蒲池琴美(2009/12/25 掲載)

    主人公は“giving tree”と“1人の少年”。幼少期には笑顔でその木と戯れていた少年ですが、年を重ねるに連れ、恋をし、その他の楽しみを見つけ、木とは遊ばなくなります。いつの日か世渡りを覚えた若人となり、中年になり、老人に成っていく課程で“giving tree”が少年の欲求を満たすために枝やリンゴ等を与え、木は自らを犠牲にしてでも少年を幸せにするというお話です。「少年が成長するにしたがって、「お金が欲しい」「家が欲しい」と少年(人間)の欲求はふくらみ、木が払う代償もしだいに大きくなっていきます。全てを与え尽くし、切り株だけになった“giving tree”の上に、老人となった少年が静かに腰をかけて物語は終わりを迎えます。テーマは「人間と欲」、「自然と人間」など様々なとらえ方ができます。それも読む人によって、読む年齢、時期によってテーマは変わります。 “絵本”ではありますが、シンプルな物語や黒と白の単調な描写とその余白にいろいろな解釈の余地が残されており、子どもはもちろん大人にとっても感慨深い絵本です。また、絵本であるがゆえ、第3者の視点で話が進められており、“giving tree”の寛大さや無償の愛が効果的に描かれていると思います。これまで何度か読み返す機会がありましたが、最後に熟読したのは、お腹に生命が宿った時。これまで自分(人間)の無力さや愚かさを指摘されているように感じ、最後のシーンに描かれる与える物がなくなった“giving tree”と何も欲しくなくなった老人に寂しさを覚え、虚しさが残る絵本でした。もちろんそれは教訓となっていましたが、子を持つ母親となった時、“giving tree”の寛大さに素直に感動したのを覚えています。人生の節目、節目で展開されるストーリーになっており、いつ読んでも毎回違った印象(教訓)を与えてくれるため、何度読んでも新鮮な絵本です。老若男女問わず誰にでもオススメできる1冊です。どんな印象、感想をもつかは未知ですが、私自身も子どもが話の内容を理解できるようになったら、読み聞かせてあげたいと思う絵本です。

    プロフィール

    蒲池琴美

    九州経済調査協会 情報研究部 研究員