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トメック(世界傑作童話シリーズ さかさま川の水1)、 ハンナ(世界傑作童話シリーズ さかさま川の水2)
ジャン=クロード・ムルルヴァ作 堀内紅子訳 平澤朋子画
福音館書店
大和泰子(2010/03/18 掲載)
さかさまに流れる川、クジャー川。飲めば不老不死の効果を得られるその川を探して旅する少年と少女のお話です。
その冒険もたくさんの興味深いエピソードに溢れていて文句なしにおもしろいものですが、今回は別のことを掘り下げてみたいと思います。
私はいつもちょっぴり甘くて、淡いけれども確かな幸福感に包まれたい時、この本を手に取ります。なぜなら、様々な人々との出会いが描かれ、彼らと交わす愛情の豊かさがしっかりと伝わってくるから。
多くの出会いの中でも、主人公のトメックとハンナが初めて出会った時のお話が最も印象的です。よろず屋を営んでいるトメックは、お店にやってきたハンナをひとめ見た瞬間恋に落ちてしまいます。そこから始まる喜びや、とまどいの気持ちが絶妙に表現されていて、ふたりの息使いや、まばたきの気配まで感じとれるほど。こんなふうに、無防備に感情が揺れ動いてしまうことの素敵さを、いつまでも忘れたくないなと思うのです。
また、本好きとして見逃せないのが、不思議な花の香りによって、深い眠りについたトメックを起こすために、ハンナが彼だけの目覚めの言葉を探して本を読むお話。こんな発想、本が好きじゃないと思いつかないですよね。言葉って時には面倒ですが、例えようもないマジカルな力を持っていて、私はそれが大好きです。そんなわけで、このお話は私にとって、どこまでも静かな余韻に浸れる、憧れのシチュエーションなのです。
そして、ふたりと友情を育む人々がみんな自分の世界を持っているところが魅力的で、特にマリーという女性のたたずまいは、一際輝いて見えます。過去の思い出を胸に秘めながらも、つらい出来事をカラッとしたユーモアで笑い飛ばす姿勢はお見事!人生を楽しむことを恐れず、自分の足でしっかり立って歩いていく、まさしく大人な彼女とはぜひ友達になりたい!と思うほどです。
今回また読み返してみて、やっぱり幸せ気分になりつつ、冒険するって初めの一歩を踏み出すことかもしれないと感じました。
そうそう、この本は挿絵もとても雰囲気のあるものなので、そちらもお見逃しなく
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プロフィール
大和泰子
丸善福岡ビル店 児童書担当者