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Regional Economics and Policy
Harvey Armstrong and Jim Talor
Blackwell Publishers Ltd
高木直人(2009/12/26 掲載)
この本は、私が九経調に入社して最初に読んだ英語の本である。初版が1985年となっているので、出版されてから2年後に読んだことになる。最初は英語の本ということで、辞書と首っ引きで読まねばならないと覚悟していたが、読んでみると平易な英語ですらすらと読めた記憶がある。
なぜ、私がこの本を読み始めたかというと、日本には適当な地域経済学の教科書がなかったからである。たしかに当時でも地域経済をテーマにした専門書はあった。しかし、いずれも「帯に短し襷に流し」で、理論的すぎたり、逆に読み物的すぎる本が多かった。その時、九経調の先輩が紹介してくれたのが、Regional Economics and Policyである。
この本の最大の特徴は、理論に偏重せずに、empirical(経験的)な研究を重視している点である。アカデミックな論文だけでなく、実態解明に重点を置いた調査研究報告書の成果がふんだんに盛り込まれているのが魅力である。そのなかには、九経調がこれまでに行った調査研究と共通する視点をもった報告書も少なくない。
もちろん理論が軽視されているわけではない。地域所得論、地域産業連関論、地域成長論、地域間交易論、人口移動論、地域雇用論といった主にマクロ経済学に基礎を置く地域経済学の理論が丁寧に解説されている。第3版では大幅に改訂され、最新の空間経済学の成果も取り入れられている。
また、本書の後半は、政策編で構成されている。地域政策の発祥の地、イギリスの地域政策の経験や最新の政策手段が紹介されているほか、EUの地域政策の最新動向が概観できるのも興味深い。
この本は、1985年に初版が出た後、1993年に2版、2000年に3版が出ている。今では世界中で最も定評のある地域経済学の教科書になっていると言ってもいい。2版と3版については日本語版も刊行されている。ただ、日本語版は直訳が多いので、Amazonで英語版を買って英語で読むのを勧める。私は、今、3度目の読破に挑んでいる。何度読んでも、「九州だったらこうなるのに」とか、「九州もこうしなければ」という新たな知的刺激を与えてくれる本である。
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プロフィール
高木直人
九州経済調査協会
常務理事