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環境問題と世界史
大場英樹
公害対策技術同友会
外川健一(2009/12/26 掲載)
現在は比較的入手が難しくなっているかもしれない著書である。この本は、現在法政大学にいらっしゃる藤倉良先生(当時 九州大学工学部附属環境システム工学研究センター)からご紹介いただいた本である。「環境問題の概要を、若い大学生と一緒に学ぶにはもってこいの本だと思うよ。」と先生から紹介されたこの本は、当時経済地理学の視点での環境問題の分析視角を模索し始めた私にとっては、まさに衝撃的な本であった。
筆者は若くして世を去ったジャーナリストである。大学で生態学を学びながら、生態系の一員としての人間に目を向けていたそうだが、いわゆる世界史を「環境問題」を軸として語っている点に大きな特徴がある。4大文明が栄え、そして滅んだ背景にいわゆる「環境問題」があったこと、たとえば古代メソポタミヤ文明は塩害の影響で多くの農地が被害を受けて崩壊していったこと、古代エジプト文明では衛生概念がほとんどなく、きわめて非健康的な環境であったこと、そのような衛生問題は中世の都市にも顕著であったこと、古代文明は「鉛」で滅びたというギルフィランの説を紹介しながら、鉱業・重化学工業の発展と環境問題との因果関係が、古くてなお現在も本質的には変わっていない問題であることを淡々と記してある。それは4大公害問題をわが国が本当に克服しているかどうか、私に改めて問いかけてくれたものであった。
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プロフィール
外川健一
熊本大学法学部
法学科教授