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レンズに映った昭和
江成常夫
集英社新書
牛島和夫(2009/12/26 掲載)
本書は、筆者(牛島)が2009年3月に九州産業大学を退職する際に著者から記念として贈られたものである。著者は写真家で九州産業大学大学院芸術研究科教授を1994年から勤めている。
2006年12月に九産大美術館で「鬼哭の島」と題する、著者による写真展が開催された。筆者はゼミの1年生に写真展を観て感想文を提出するように指示した。指示の主な目的は3つある。①学内にすばらしい施設があるのに学生はあまり関心がない。それを打開したい。②文章力の向上を目指す。③写真展のテーマへの関心を知りたい。
写真展「鬼哭の島」のテーマは、太平洋戦争の戦跡である。著者は2004年から2006年にかけて真珠湾、ペリリュー島、レイテ島、サイパン島、硫黄島、沖縄など太平洋戦争の激戦の島々を巡り、そこで撮った写真に短い詞書きを添えて写真展を構成した。学生たちの感想文を読むとこの写真展が彼らの心に響いたことがわかる。このことを美術館の学芸員に伝えておいたところ、これが著者・江成氏に伝わり、それから江成氏と筆者の交流が始まった。
著者は1936年生まれ、敗戦の年には国民学校3年生であった。8月15日の玉音放送を家のラジオで聞いたという。戦後60年を経て戦争の記憶はどんどん薄れていく。新聞社を退社してフリーとなった著者は30年以上にわたって”負の昭和”をテーマに写真活動を続けてきた。本書は、海を渡った戦争花嫁、中国に取り残された戦争孤児、そしてヒロシマにレンズを向け続け、レンズを通して”負の昭和”を浮かび上がらせてきた著者の写真活動を総括したものである。優れた昭和史となっている。「どんな分野にせよ、表現あるいは芸術としての条件は、時代と社会に向かい人間本来のありようを考え、声なき声をすくい上げることである。まして記録性に長けた写真の役割は、それを果たすことにほかならない」と著者は述べている。
なお、「鬼哭の島」への言及はない。本書以後の活動である。