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鉄の首枷 小西行長伝
遠藤周作
北橋健治(2009/12/27 掲載)
本書の主人公である小西行長は、堺の薬を扱う商人の家に生まれ、父の影響を受けて早くからキリシタンになった。後に豊臣秀吉に取り立てられるが、関ヶ原合戦で敗れて刑死する。キリシタンとしての信仰、キリシタン信者からの期待と時の権力者・豊臣秀吉との関係、そして己の世俗的野心…。それぞれ相容れない中で彼がどのように生きたのかが描写されている。
キリシタン大名小西行長にはめられていた「鉄の首枷」とは、信仰のみに生きることができず、世俗、野望、キリシタン信者からの期待といったものに縛られ生き、最後に斬首されることで、その「鉄の首枷」を外す事が出来たという悲運を表しているといえる。
無謀な朝鮮侵攻において秀吉を裏切り、同僚加藤清正を落とし入れてまで和平工作を重ねた行長の、面従腹背の生涯の謎に迫る一冊である。
市長に就任後、門司・小倉の歴史について深い関心を持つようになり、時の権力者が弾圧したキリシタンの歴史と、豊前小倉藩の細川忠興とキリシタンとの関係を知るにつれ、改めて読み返し非常に強い印象を持った一冊である。
主人公の小西行長は孤児院を建てるなど、貧しい人々に手を差し伸べた人物で、秀吉の朝鮮出兵という命令に対し、「無用な殺生は出来るだけ避けたい」というキリシタンであるが故の苦悩、行長自身は平和を望みながら時の権力者に従わざるを得なかった苦悩について、共感する部分があった。また、本書のように、史実に基づき描かれている、日本の武将の生き様には、心を動かされるとともに哀れを感じる。本書は非常に重いテーマを扱っており、困難な状況下に自分を信じて、自分を貫く生き方の大切さが行間ににじみ出ている。
現代の日本は人口減少社会に突入し、多少困難な時代、厳しい状況を迎えていると思うが、現代の状況と本書の時代を比べると、もっともっと頑張らねばならないと感じられ、勇気をもらっている一冊である。