国家の品格

藤原正彦

自省禄

惣福脇亨(2009/12/27 掲載)

この本はベストセラーである。2005年11月の発刊をきっかけに、「〜の品格」という本が数多く出た。また、2008年9月の「リーマン・ショック」の発生をあたかも予見したが如き、現代警告の書だ。

著者は、「アメリカは、北朝鮮に核を持つなと言っているが、北朝鮮が聞く訳がない。何故なら、自分達は、地球の全人民を何十回も殺せるような核兵器を持っているからだ。」という。 全くその通りだと思う。

論理や合理については、「人間というのは、論理や合理だけではやっていけない。論理的に正しいことと善悪は別次元のことだ。どんな戦争にも当事者双方に論理がある。しかし、人間が戦争を繰り返していることをみれば、論理の限界は明らかだ。」と主張している。これには、全く説得力があり、納得してしまう。また、「人を殺してはいけないということを論理的に説明することはできない。駄目なものは駄目ということにつきる。数学の世界でさえも、論理では説明できないことがある。論理の出発点を選ぶのは、論理ではなく、情緒や形。論理とか合理に頼りすぎてきたことが、現代世界の当面する苦境の真の原因」と断じており、目からうろこだ。

品格ある国家については、「国家の独立不覊」、「高い道徳」、「美しい田園」、「天才の輩出」の4つをあげている。

この中で、「美しい田園」には、金銭至上主義に冒されていない美しい情緒の存在が必要としており、「天才を輩出」するためには、文学、芸術、宗教など直接役に立たないものを重んじ、金銭や世俗的なものを低く見る風土、精神性を尊ぶ土壌、美の存在、何かに跪く心が重要だとしている。

正に、戦後の日本及び日本人が、経済成長やグローバル化の中で、失いつつある もののあわれ、文化、伝統、精神、測隠の情を取り戻すべきだと訴えており、感銘すべき点が多い。

プロフィール

惣福脇亨

(社) 九州経済連合会 専務理事