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マザー・グースのうた第1集
谷川俊太郎 訳、堀内誠一 絵
草思社
大谷友男(2010/04/07 掲載)
『マザー・グースのうた』は、英国の伝承童謡集である。マザー・グースのうたは、北原白秋や竹久夢二の手によって邦訳されるなど、古くからわが国において紹介されているが、ここでは私自身が幼い頃に親しんだ谷川俊太郎氏の訳と堀内誠一氏の絵によるものを紹介したい。
マザー・グースのうたは、英国の伝承童謡ゆえに原詩はもちろん英語である。したがって、そのバックボーンやニュアンスなどの点において一般の英文とは異なり、訳(解釈)の幅も広がってくる。そのため、日本で読むものは、訳者によって全く違った印象を与えるものになるが、谷川氏による訳は、マザー・グースの世界で展開されるブラックユーモアや残酷な言葉、謎めいた展開といったミステリアスな大人じみた世界を、詩のリズムのよさと共存させて読み手に違和感を抱かせない。こうしたところが、大人の世界にあこがれながらも畏れをなす無邪気な子どもにとって刺激的な本であったいえる。その意味では、一般的に子どもに薦める本とは毛色が異なると思われるが、子どもの感受性に強く訴えかける本であると考える。
ここでは「本」としての紹介としているが、私の記憶の奥底に残っているのは、本を開きながら、セットになったレコードから流れる音楽や朗読に耳を傾けた『マザー・グースのうた』である。マザー・グースのうたは、本としてだけでなく、音楽や朗読とあわせてその世界に触れることで、その世界の奥深さや面白さは2倍、3倍にふくれあがる。そのため、本とレコード(CD)がセットになったものがあったら、ぜひとも目と耳でその世界に入り込んでいただきたいと思う。
「ロンドンばしがおっこちる」のように陽気なテンポの歌がある一方で、「フェルせんせいぼくはあなたがきらいです」、「これはジャックのたてた いえ」などは、谷川氏の朗読を行っている。この朗読は、今思うと決して子ども向けの本(レコード)とはいえない重厚さを感じさせる。そして、それが子どもにとっては、少しこわいけど、どこかであこがれる大人の世界に入り込ませてくれるものであったと思われる。
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プロフィール
大谷友男
九州経済調査協会 調査研究部 研究主査