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星新一ショートショート1001
星新一
新潮文庫
中川敬基(2010/07/01 掲載)
通勤時間や近場での打ち合わせ等、日常生活のちょっとした移動時間に、どのような本を読むか悩まれたことはないだろうか。地下鉄やバス等での移動は、長編小説を読むには時間が短すぎて、乗り換えの度に読書を中断しなければならない。そこで、一回の読書毎に読み切りの短編小説をお勧めしたい。今回ご紹介する作品は、星新一のショートショートである。
ご存じの方も多いかもしれないが、星新一と言えば、筒井康隆、小松左京とともに日本のSF界を築き上げた御三家の一人である。その中でも星新一は、日本文学において、ショートショートという分野を切り開いたパイオニアである。
ショートショートとは、著者のアイデアやユーモアを詰め込んだ短編小説よりもさらに短い作品であり、誰も予想できない“オチ”が必ず用意されている。
私が初めて星新一の作品に触れたのは、小学校の頃である。星新一のショートショートは、可能な限りルビが振られており、ストーリーもシンプルであるものが多い。また、通俗性が排除されており、地名・人名といった固有名詞はあまり登場しない。加えて、具体性のある表現は避け、例えば「豪華な食事を2回すればなくなる金額」といった風に表現が工夫されているため、幼い頃から作品に慣れ親しむことが可能である。しかし、大人になってから改めて読んでみると、一見単純なストーリーの“オチ”の中に、星新一の強烈な皮肉やブラックユーモアが盛り込まれていることが分かってくる。
全てを紹介することができないのが残念であるが、例えば、ある日突然地球にやって来たか弱い妖精の本性を描いた「妖精配給会社」、ある日突然現れた底なしの大穴にゴミを捨て続けた人間の結末を描いた「おーい、でてこい」等は星新一のブラックユーモアとそのセンスの素晴らしさに触れることができる代表作であろう。
星新一は、1001編ものショートショートを世に残している。ショートショートという短いストーリーの中に、自らのアイデアを詰め込んだ星新一のプロフェッショナルな作品の数々、皆さんも是非手にとってご覧頂きたい。
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プロフィール
中川敬基
九州経済調査協会 調査研究部 研究員